1. レベリング(Leveling & Alignment)
レベリングの目的
・叢生(歯のガタガタ)や傾斜している歯を整列させ、アーチフォーム(歯列弓)を整える段階です。
レベリングに使用するワイヤー
・初期には柔らかく細いNi-Ti(ニッケルチタン)ラウンドワイヤー(例:0.012〜0.016インチ)を使用。歯に持続的で優しい力をかけて移動させます。
レベリングで行うこと
・歯根はまだ移動していないため、主に歯冠(歯の上の部分)の整列が行われます。
・叢生が強い場合には便宜抜歯(第一小臼歯など)を事前に行ってスペースを確保します。
・段差や上下の歯の高さ(レベル)も調整していきます。
2. 空隙閉鎖(Space Closure)
目的:
・抜歯部位などにできたスペースを閉じ、歯列全体を後方(遠心)へ移動させます。
・前歯部のリトラクション(後方移動)を伴うことが多いです。
使用するワイヤー:
・この段階ではより太いステンレスワイヤー(例:0.017×0.025や0.019×0.025インチ)などの矩形(くけい)ワイヤーを使用して歯の傾きや回転をコントロールします。
・パワーチェーンやスライディングメカニクス、ループなどで力をかけます。
特徴:
・シンチバック(Anchorage lossを防ぐためのワイヤーの固定処理)を行うことで、前歯のフレア(前方への突出)を防ぎます。
・アンカレッジコントロール(歯の移動量を調整し、余計な動きを抑える)が非常に重要になります。
現代矯正でクロージングループが使われにくい理由
1. スライディングメカニクスの普及
- ワイヤーとブラケットの摩擦をコントロールしながら、シンプルな直線ワイヤー+パワーチェーンやコイルスプリングでスペース閉鎖を行う方法が主流です。
- 製作や調整が簡便で、チェアタイムを短縮できます。
2. 効率化・標準化への移行
- ループは個別にワイヤーベンディングが必要で、術者の技術に依存する部分が多いです。
- 現在は「プレアジャステッドエッジワイズ(MBTやロスシステム)」など、あらかじめ設計されたブラケット+ストレートワイヤーを組み合わせた標準化された治療が主流です。
3. 審美性・快適性の重視
- ループワイヤーは見た目が目立つため、審美的に敬遠される傾向があります。
- また、唇や粘膜への刺激となることがあり、違和感や痛みの原因になる場合もあります。
4. デジタル矯正の進化
- インビザラインをはじめとするアライナー矯正や、インダイレクトボンディングの登場により、個別ベンディングの必要性が減っています。
ただし、今でも一部で使われる場面
- 難症例(特にトルクコントロールが難しい前歯のリトラクション)
- インビザラインなどでは再現しにくい、厳密な生体力学的コントロールが必要なケース
- 教育機関での生体力学教育やトレーニング用途
3. 仕上げ(Finishing)
目的:
・細かい咬合調整、歯の傾斜・ねじれ・接触点などの微調整を行い、理想的な歯列と咬合を実現します。
使用する技術:
・トルク調整、ローテーションの修正、咬合の微調整などが含まれます。
・咬合紙やシミュレーションソフトを用いた機能的咬合の確認も行われます。
・ワイヤーも細かい調整がしやすい調整可能な硬めの矩形ワイヤーを用いることが多いです。
特徴:
・この段階での調整が最終的な審美性と機能性に直結します。
・患者の咀嚼や発音への影響も考慮されます。
補足:リテーナー(保定)
仕上げが完了した後は、リテーナー(保定装置)を使用して、歯の後戻りを防ぐ保定期間に入ります。
クリアタイプやワイヤータイプなど、症例に応じて選択されます。