インビザライン治療は透明なマウスピース(アライナー)を使用することで目立ちにくく、取り外しが可能なため、多くの患者様に人気があります。しかし、一般的なワイヤー矯正(ブラケット矯正)と比較して、いくつか欠点や注意点も存在します。治療を検討する際にはこれらのデメリットを理解しておくことが重要です。以下、インビザライン治療の欠点について詳しく解説します。
① 自己管理の難しさ(装着時間の問題)
インビザラインは1日20~22時間以上の装着が推奨されています。食事や歯磨きの際に取り外せる点がメリットでもありますが、患者自身で装着時間を厳守する必要があります。自己管理が甘くなると、予定どおりに歯が動かず、治療期間が延びたり、治療効果が得られない場合があります。特に自己管理が苦手な方や、外す頻度が多くなりがちな患者様には向きません。
② 適応できない症例もある
インビザライン治療は軽度~中程度の不正咬合の改善に有効ですが、重度の歯列不正や骨格的な問題を伴う症例には、治療効果が限られる場合があります。大きく抜歯が必要な症例や、大幅な顎の位置の修正を伴うケースでは、インビザライン単独での治療は難しく、ブラケット矯正や外科的治療が推奨されることもあります。
③ 治療期間の延長リスク
患者のアライナー装着状況や歯の動きの個人差により、事前のシミュレーション(クリンチェック)通りに治療が進まないことがあります。その場合、追加でアライナーを作成する「追加アライナー」の製作が必要となり、治療期間が数か月以上延びることも珍しくありません。ワイヤー矯正に比べ、患者側の協力度によって大きく治療期間が左右されやすい点がデメリットと言えます。
④ 食事の不便さと制限
アライナーは食事の際に必ず外す必要があります。そのため、食事前後にアライナーを外したり装着したりする作業が面倒に感じる方もいます。また、食後は口腔内を清潔にした上で再度アライナーを装着しなければならないため、外食や間食が多い生活スタイルの方には手間が増えるという欠点もあります。
⑤ 発音への影響や違和感
アライナーを装着している際には、口腔内に異物感や圧迫感を覚えることがあります。特に装着開始直後や新しいアライナーへ交換したばかりの頃は、発音がしづらくなったり、「さ行」や「た行」など特定の音が話しにくく感じたりする場合があります。多くの方が徐々に慣れていきますが、発音や話しやすさを特に重要視する職業の方には、慣れるまで多少のストレスとなる可能性があります。
⑥ マウスピース紛失・破損のリスク
取り外し式のマウスピースであるため、紛失や破損の可能性があります。外食時に外したマウスピースを誤って捨ててしまうなどのトラブルは少なくありません。破損や紛失があった場合、代替アライナーを作成する必要があり、追加費用や治療期間の延長が発生する場合もあります。
⑦ 歯の動きの限界や精度の問題
インビザラインはシミュレーション通りに歯が動くことが前提となっていますが、実際には想定通りに歯が動かないケースもあります。特に回転や挺出(歯を引き上げる動き)などの複雑な動きには、ブラケット矯正と比べて精度が劣ることがあります。そのため、微調整を目的として最後の仕上げにワイヤー矯正を併用する場合もあります。
⑧ 奥歯の噛み合わせ調整が難しい
インビザラインでは奥歯の噛み合わせ(臼歯部咬合)の調整がやや苦手な傾向にあります。ワイヤー矯正に比べて、緻密な上下の噛み合わせの改善は難しいことがあります。そのため、噛み合わせの調整を細かく行いたい症例や、重度の不正咬合に対しては、ワイヤー矯正を併用したり、仕上げ段階で調整が必要となることがあります。
⑨ 歯の表面に付けるアタッチメントの存在
歯の動きを補助するために、小さな樹脂の突起(アタッチメント)を歯の表面に装着する必要があります。これは治療効果を高めるためには必要不可欠なものですが、見た目がやや目立ったり、違和感や清掃性の低下につながることがあります。
⑩ 費用の問題
インビザラインは他の矯正治療と比較して費用が高額になる傾向があります。ブラケット矯正と同等かそれ以上の費用がかかる場合があり、特に治療期間が長引いたり、追加アライナーが必要となった場合、最終的な費用負担が増えることもあります。
以上のように、インビザライン治療は審美性や利便性が高い一方で、自己管理の難しさ、適応症例の限界、精度や治療期間の不確定さ、費用の問題など、さまざまなデメリットがあります。患者様ご自身の性格やライフスタイル、症状などを総合的に考え、歯科医師とよく相談したうえで適切な治療法を選択することが重要です。