本日の予約状況・出勤歯科医師の確認▶

歯石取りとPMTCはなぜ必要なのか?

歯石取りとPMTCはなぜ必要なのか?

~「削って治す」から「守って予防する」現代歯科医療の核心~

歯科医院を受診した際、「治療の前に、まずは歯石を取りましょう」「定期的にPMTCを受けに来てくださいね」と言われた経験は誰しもあるでしょう。痛みがあるわけでもないのに、なぜわざわざ時間と費用をかけてクリーニングをする必要があるのか?単に「見た目を綺麗にするため」だけの行為だと思っていませんか?

結論から申し上げますと、歯石取り(スケーリング)とPMTC(専門的機械的歯面清掃)は、お口の健康、ひいては全身の健康を守るための「最も基本的かつ重要な医療行為」です。これらはエステのような美容目的ではなく、虫歯や歯周病という細菌感染症に対する根本的なアプローチなのです。

なぜ毎日の歯磨きだけでは不十分で、プロによるケアが不可欠なのか。その理由を、お口の中で起こっているメカニズムから深く掘り下げて解説します。


1. 敵を知る:プラークと歯石の正体

歯石取りとPMTCの必要性を理解するには、まずその標的である「汚れ」の正体を正しく知る必要があります。

1-1. プラーク(歯垢):細菌の巨大な塊

私たちが食事をすると、食べカスが口に残ります。これをエサとして細菌が爆発的に増殖し、ネバネバした物質を作り出します。これが「プラーク(歯垢)」です。 プラークは単なる食べカスではありません。わずか1mgの中に約1億個~数億個もの細菌がひしめき合っている、まさに「細菌の塊」です。この細菌たちが酸を出せば虫歯になり、毒素を出せば歯茎が腫れて歯周病になります。

プラークの段階であれば、丁寧な歯磨き(ブラッシング)でその多くを落とすことができます。しかし、現実にはどんなに歯磨きが上手な人でも、磨き残しをゼロにすることはほぼ不可能です。

1-2. 歯石:細菌の石化した要塞

磨き残されたプラークは、どうなるのでしょうか。唾液に含まれるカルシウムやリンといったミネラル成分と結びつき、約2日~2週間という短期間で石のように硬くなります。これが「歯石」です。

ここが最も重要なポイントですが、一度歯石になってしまうと、歯ブラシでいくらこすっても絶対に取れません。

歯石そのものは死んだ細菌の塊なので、直接的に悪さをするわけではありません。しかし、歯石の表面は軽石のようにザラザラしており、そこに新たな生きたプラークが非常に付着しやすくなります。つまり、歯石は細菌たちにとっての「安全な隠れ家」であり「増殖のための足場」となってしまうのです。この悪循環が、お口の環境を急速に悪化させます。


2. 放置した場合の恐ろしいシナリオ:歯周病の進行

歯石取りやPMTCをせずに放置すると、どのような経過をたどるのでしょうか。

2-1. サイレント・ディジーズ(静かなる病)

歯石が歯と歯茎の境目(歯肉溝)に溜まると、細菌が出す毒素によって歯茎が炎症を起こし、赤く腫れたり、歯磨きで出血したりします(歯肉炎)。この段階では痛みはほとんどありません。

放置すると、炎症は歯茎の奥深くへと進行します。体は細菌の侵入を防ごうとして、歯と歯茎の間の溝を深くしていきます。これが「歯周ポケット」です。このポケットの奥深くに、酸素を嫌う悪質な歯周病菌が入り込み、さらに硬くて黒い歯石(縁下歯石)を作ります。

こうなると、体の防御反応が過剰に働き、自らの骨(歯を支えている歯槽骨)を溶かし始めてしまいます。これが「歯周炎(いわゆる歯周病)」です。恐ろしいことに、骨が溶けても初期~中期では強い痛みが出ません。気がついた時には歯がグラグラになり、最終的には抜け落ちてしまいます。

歯周病は、日本人が歯を失う原因の第1位であり、成人の約8割がかかっていると言われる国民病です。その最大の原因は、放置されたプラークと歯石なのです。

2-2. 全身の健康への悪影響

近年、研究が進み、お口の細菌が引き起こす炎症が、全身の健康に深刻な影響を及ぼすことが明らかになってきました。 歯周ポケットから血管内に侵入した細菌や炎症物質は、全身を巡ります。これが、糖尿病の悪化、心筋梗塞・脳梗塞のリスク上昇、妊婦の低体重児出産・早産、高齢者の誤嚥性肺炎などと深く関わっていることがわかっています。 つまり、口の中の汚れを放置することは、寿命を縮めるリスクにもつながるのです。


3. プロフェッショナルケアの役割:なぜ必要なのか

自分では取り除けない汚れがあり、放置すれば歯を失うリスクがある。だからこそ、歯科医院でのプロフェッショナルケアが必要不可欠となります。「歯石取り」と「PMTC」は、それぞれ異なる役割で私たちのお口を守ってくれます。

3-1. 歯石取り(スケーリング):細菌の足場を破壊する治療

歯石取りは、専用の器具(超音波スケーラーやハンドスケーラー)を用いて、歯に強固に付着した歯石を物理的に破壊し、除去する処置です。

  • なぜ必要か? 前述の通り、歯石は歯磨きでは取れません。歯周病の原因菌の温床となっている「石」を取り除かない限り、歯茎の炎症は絶対に治まらないからです。これは、美容行為ではなく、歯周病という病気に対する「治療」の第一歩です。

特に、歯周ポケットの奥深くにこびりついた歯石(縁下歯石)の除去は、歯科医師や歯科衛生士といった国家資格を持つ専門家の技術がなければ不可能です。これを取り除くことで、ようやく歯茎の炎症が引き、引き締まった健康な状態に戻るチャンスが生まれます。

3-2. PMTC:バイオフィルムの破壊と環境改善

PMTCは「Professional Mechanical Tooth Cleaning」の略で、歯科医師や歯科衛生士が専用の機械とフッ素入りペーストなどを用いて行う、徹底的な歯面清掃です。単なる歯石取りとは目的が異なります。

  • 狙いは「バイオフィルム」の破壊 お風呂場の排水溝のヌメリを想像してください。あれは細菌が作り出した強力な膜(バイオフィルム)です。お口の中のプラークも、時間が経つと成熟して強力なバイオフィルムを形成します。こうなると、家庭の歯磨き剤や洗口剤の薬用成分は内部まで浸透しません。 PMTCは、回転するブラシやゴムのカップを使って、この成熟したバイオフィルムを機械的に破壊して剥がし取ります。
  • ツルツルにして汚れを付きにくくする 歯石を取った後の歯の表面は、実はザラザラしています。そのままでは再び汚れが付きやすい状態です。PMTCでは、専用のペーストで歯の表面を磨き上げ(ポリッシング)、ツルツルにします。 車のボディにワックスをかけると汚れが付きにくくなるのと同じ原理で、歯の表面を滑沢にすることで、新たなプラークや着色汚れ(ステイン)の再付着を長期間防ぐことができます。
  • 歯質の強化 仕上げに高濃度のフッ素を塗布することで、歯の再石灰化を促し、酸に溶けにくい強い歯を作ります。

4. 結論:「セルフケア」と「プロケア」の両輪で守る

「毎日歯磨きをしているから大丈夫」というのは、残念ながら大きな誤解です。 日々のセルフケア(歯磨き)は、新たな汚れを溜めないための最も重要な習慣ですが、それだけでは完璧ではありません。

例えるなら、日々の掃除機がけ(セルフケア)と、年末の大掃除やプロのハウスクリーニング(プロケア)の関係に似ています。普段の掃除では手が届かない場所、どうしても溜まってしまう頑固な汚れをリセットするために、プロの介入が必要です。

  • 自分で落とせる汚れ(プラーク)を毎日落とす=セルフケア
  • 自分では落とせない汚れ(歯石・バイオフィルム)を定期的に落とす=歯石取り・PMTC

この両輪が噛み合って初めて、虫歯や歯周病を効果的に予防し、生涯にわたって自分の歯で美味しく食事を楽しむことが可能になります。

痛くなってから歯科医院に行って削ったり抜いたりする対症療法ではなく、痛くなる原因を未然に取り除く予防歯科。その中心にあるのが「歯石取り」と「PMTC」なのです。3ヶ月~半年に一度の時間投資が、あなたの将来の健康を守る最も確実な保険となるでしょう。

きらら歯科院長 渡部 和則

▶きらら歯科 院長・歯科医師
▶歯科医師臨床研修指導医
2001年に国立東北大学歯学部を卒業後、大手歯科医療法人にて研鑽を積む。『きらら歯科』開設後は、総勢25名以上の歯科医師を率いる東京最大規模の総合歯科医院へと組織を牽引。 一般歯科から小児・インプラント・矯正歯科に至るまで包括的な診療体制を構築し、XガイドシステムやiTero(口腔内スキャナー)などの最先端デジタル歯科医療技術をいち早く導入。高度な診断と精密な治療を提供している。 また、これまでに50名以上の歯科医師を指導・育成した実績を持ち、臨床研修指導医として次世代の歯科医療を担う人材の輩出にも尽力している。

【所属学会・資格】
日本歯周病学会
日本補綴歯科学会
日本歯内療法学会
日本口腔インプラント学会
インプラント再建歯学研究会

歯の健康情報を発信中!ぜひフォローお願いします。