歯周病の発見の歴史
歯周病は細菌による感染症でありそして生活習慣病の一面も持っています。歯周病は細菌感染によって引き起こされる慢性炎症性疾患であり、感染症の一種です。 主な原因は、ポルフィロモナス・ジンジバリス(P. gingivalis) などの嫌気性菌で、歯と歯肉の境目にプラーク(歯垢)として付着し増殖します。これにより歯肉の炎症が進行し、放置すると歯を支える骨(歯槽骨)が破壊され、最終的に歯が抜け落ちることもあります。さらに、歯周病菌が血流を介して全身に拡散し、心血管疾患や糖尿病の悪化など、全身疾患との関連も指摘されています。

数千年の人類の歴史という時間の隔たりがあり、現在とは異なる食生活にもかかわらず、歯周病の原因である同じ細菌が古代人の口の中にもいました。人類と歯周病との付き合いは大変古く、旧石器時代の早期ネアンデルタール人の顎の骨にも認められます。
歯周病の原因菌は、約1万年以上も特に変化することなく、人類の歴史とともに親から子へ、あるいはパートナーへと脈々と受け継がれてきたといえます。いわゆる感染症の一つといえます。

歯周病治療の歴史
歯周病治療の歴史は古く、様々な時代にさまざまな方法が試されてきました。以下に、歯周病治療の歴史の一般的な概要を示します。
古代
古代エジプトや古代ギリシャなどの古代文明では、口腔衛生の重要性が認識されており、歯周病の治療にも努められていました。植物やハーブを使った口腔洗浄や歯磨きの方法が用いられていました。
ネム(ネムノキ): ネムの葉や樹皮には抗菌作用があるとされており、口内の細菌の成長を抑制する効果があると言われています。
セージ: セージには抗菌作用があり、口内の細菌の成長を抑制するとされています。口内洗浄剤や歯磨き粉として使用されることがあります。
カモミール: カモミールには抗炎症作用があり、歯茎の炎症や腫れを和らげる効果があるとされています。口内洗浄剤やうがい薬として使用されることがあります。
ユーカリ: ユーカリの葉には抗菌作用があり、口内の細菌の成長を抑制する効果があるとされています。口内洗浄剤やうがい薬として使用されることがあります。
クローブ: クローブには抗菌作用があり、歯茎の炎症や腫れを和らげる効果があるとされています。
これらのハーブは、歯周病の予防や軽度の症状の緩和に役立つ可能性がありますが、歯科医師やハーブ療法の専門家に相談してから使用することが重要です。また、ハーブの使用には適切な方法や量を守ることが重要です。
中世
中世ヨーロッパでは、歯周病治療に関する知識が限られており、歯周病が慢性的な問題として残りました。治療法としては、抜歯や患部の洗浄が行われることがありました。
近代
近代に入ると、歯周病の治療に関する科学的な研究が進み、歯周病の原因やメカニズムが理解されるようになりました。19世紀には、歯周病の治療に銀のニトレートや水銀が使用されるなど、化学的な方法が試みられました。
20世紀
20世紀に入ると、歯周病の治療法が大幅に改善されました。抗生物質の発見や歯科衛生士の登場など、歯周病治療のための新たな手法や専門家が登場しました。
現代
現代では、歯周病の治療には歯科医師や歯科衛生士による定期的なクリーニングや歯石除去、根管治療、抗生物質の処方、外科的手術などが行われます。また、予防的な措置としては、定期的な歯科健診や歯磨き、歯間ブラシの使用、喫煙の避けなどが重視されています。歯周病治療は、歯科医学の進歩や科学的な研究の成果によって、効果的で効率的な治療法が提供されるようになっています。
紀元前の書物にも記載
近年増えた病気というわけでなく、紀元前の中国の医学書にすでに歯周病についての記載があり、また紀元前3000年のころの古代エジプト人にも歯周病があったことがわかっています。

いろいろな古代人の歯周病の状態を比較すると、身分の高い人ほど病状がひどいことから、食べ物に恵まれ美食をしていた人ほど歯周病にかかっていたと考えられます。甘いものや柔らかい食べ物、脂質の多い食べ物など贅沢な食生活が歯周病につながったと推測されています。つまり歯周病は食習慣に影響されていたのです。
その後医学の父と言われたヒポクラテスが歯周病の原因や症状について記載しています。
そして17世紀にはレーウェンフックがプラークの中に微生物を発見しています。

しかし微生物の感染と病気の発症との関係が突き止められて歯周病の予防方法と治療が体系化されてきたのは意外にも1960年代以降です。
近年歯周病菌を研究した人
歯周病菌を発見した人は、スイスの微生物学者 フリードリヒ・ルフラン(Friedrich Loeffler) や ロベルト・コッホ(Robert Koch) など、19世紀の細菌学の発展に貢献した研究者たちによるものです。
特に、ピオール・ポッツォリ(Pierre Pottsoli) や J. L. Williams らによって、歯周病の主な原因菌として ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis) などの嫌気性細菌が関与していることが明らかになりました。
嫌気性菌とは、酸素がない環境で生育する細菌のこと。酸素を利用せずにエネルギーを産生し、一部は酸素に触れると死滅する。口腔内、腸内、泥の中などに生息し、歯周病の原因菌(ポルフィロモナス・ジンジバリスなど)も含まれる。感染症を引き起こすものもあり、嫌気培養法で検出されることが多い。
また、近代ではアメリカの微生物学者 Sigmund Socransky(シグムンド・ソクランスキー) が、歯周病菌の分類や病原性の研究を進め、レッドコンプレックス(P. gingivalis, Tannerella forsythia, Treponema denticola)が歯周病の主要な原因菌であることを明らかにしました。
シグムンド・ソクランスキーは、歯周病菌の研究で知られる微生物学者。細菌群の分類を行い、レッドコンプレックス(P. gingivalisなど)が歯周病の主因と特定。歯周病研究に大きく貢献した。
歯周病菌の研究は現在も進んでおり、口腔内の細菌叢と全身疾患との関連も注目されています。そして近年日本の歯科医療でも歯周病は最も重要な歯科疾患として治療・予防に力を入れている分野となっていています。
歯周病は感染症です
口腔内の細菌叢(マイクロバイオーム)は、全身の健康に深く関与しており、特に歯周病菌が全身疾患の発症や進行に影響を与えることが明らかになっています。
主な関連疾患
- 心血管疾患
- 歯周病菌(P. gingivalis など)が血流に入り、動脈硬化を促進。
- 炎症性サイトカインが増加し、心筋梗塞や脳卒中のリスクを高める。
- 糖尿病
- 歯周病と糖尿病は双方向の関係があり、歯周病による慢性炎症がインスリン抵抗性を悪化させる。
- 糖尿病患者は免疫力が低下し、歯周病が進行しやすい。
- アルツハイマー病
- P. gingivalis が脳に侵入し、アミロイドβの蓄積を促進。
- 認知機能低下との関連が示唆されている。
- 誤嚥性肺炎
- 口腔内細菌が誤嚥されることで肺炎を引き起こす。
- 高齢者では口腔ケアが予防策として重要。
- 関節リウマチ
- 歯周病菌が自己免疫反応を刺激し、関節炎を悪化させる可能性がある。
予防と対策
- 適切な口腔ケア(歯磨き・フロス・定期検診)
- プロバイオティクスや食生活の改善
- 歯周病治療を全身の健康管理の一環として行う
歯科治療が全身の健康に貢献するため、医科と歯科の連携も重要視されています。
歯周病は自然に治りません
このように昔から歯を失う原因として最も大きな要因であった歯周病は、自然に治癒しない病気です。
歯周病の直接の原因はプラークです。では歯磨きだけで歯周病が治るのかというと、歯石の除去や歯周病を起こしやすい環境を整え修復してあげない限り歯周病は治りません。

具体的には歯周病の治療は歯科医師・歯科衛生士そして患者様ご自身の努力なくしては治癒はありません。